三重県立図書館シンポジウム「明日の県立図書館−図書館の新しい可能性と全県域へのサービスについて考える−」メモ

1月8日に開催された三重県立図書館シンポジウム「明日の県立図書館−図書館の新しい可能性と全県域へのサービスについて考える−」*1に参加してきました。
この記事はその内容を書きとったものです。断片的なメモですので、発言者の口調やニュアンスは伝えきれません。発言を意図的に改変するつもりはありませんが、ご諒解の上お読みください。

  • 主催者挨拶

村井館長の挨拶
従来は図書の貸出がサービスの中心だったが、貸出のみならず電子情報へと移り変わりつつある。新しく端末が発売され、電子書籍も広まってきた。このことから、書籍の扱いいも変化している。このように社会が変わるなかで、図書館も迅速で幅広いサービスを提供しなければならない。そのため、県立図書館では知識・情報の拠点整備となるため、課題を見つけ解決するべく、長期短期のプログラムを作っている。その中で県内50人の図書館関係者・有識者にヒアリング*2を行った。今回のシンポジウムはその改革の紹介(或いはお披露目だったかも)をし、みなさんと図書館について考えて意見を頂戴し、その結果を最終報告に反映させていきたい。

  • 基調講演1 植島啓司氏(宗教人類学者)※図書館に関係あるところだけ抜粋

伊勢路における熊野を再評価するという本を書いた。その調査で三重にずいぶんきている。
大学教授になると、研究室に本を運んでもらえるからあまり図書館を利用しなくなる。けれど、私は図書館を未来的な公共空間だと考えている。未来的というのは所有しない、という点である。これからは物質を所有しなくても生活でき、現に車の共有などは行われている。図書館はレンタルの王国としての最大のモデルになりうる。未来像を見せていってほしい。
シカゴ大学に学生として在籍していた時、レファレンスライブラリアンにとても助けられた。シカゴ大学のレファレンスライブラリアンは「あのカウンターにいる」ではなく「この人」。個人(研究者)と個人(ライブラリアン)の結びつきによってよりよい結果が出せる。フランスの書店員も、その道のスペシャリストがいる。彼らには顔がある。日本のように匿名ではいけない。
学者に必要なものは三つある。学問的センス・資料収集能力・現場に降り立つということ、である。これまでのように一部のものが知識を独占していた時代から、共有するように変化した。学者たり得るには現場と知識とのずれを問題提起しなければならない。
その中で図書館は新しい生活モデルを提案できる。公共空間の新しいあり方である。無料貸本屋ではなく、そのような意気込みをもってもらいたい。
 

  • 基調講演2石川直樹氏(写真家、冒険家)※図書館に関係あるところだけ抜粋

基調講演1で印象的だったのは、機械的な検索では本当に大切なものにはたどりつけず、人との信頼や枝葉によって情報が広がる、という点。歩き回って本を探すのは、旅をすることと似ている。
(ご自身のエベレスト登頂、南極踏破、壁画の映像作品を見せてくださいました。)
南極にも図書館がある。それは図書館テントで、世界中の冒険家や観測隊が天候待ちの間読み、置いていった本。冒険に関するものなどが、県立図書館の海外文庫に劣らないほどある。
壁画は歴史のアーカイブだと思う。図書館も時代のアーカイブになってほしい。
 

  • パネルディスカッション

コーディネータ 植島啓司氏
パネリスト   石川直樹氏 坂倉加代子氏(三重県立図書館協議会副会長) 萩美香氏(女優)
 
植島:かつての図書館の雰囲気とは?
坂倉四日市市立図書館ができるときに、志願して行った。これからの図書館はこどもや!と一番いい部屋に児童コーナーを作り、隠れ家のようにしてそこで毎日子どもと遊んでいた。「鼠の出てくる面白い本探して」など、印象的な読書相談にも多数応じ、子どもといい関係を築いた。その温かい雰囲気が好きで、NPO法人で家を借りて図書館をつくった。
植島:図書館は静かでないといけない、という空気があるが、穏やかな音楽を流すくらいでもいいのでは。沈黙を要求しすぎる。
 :中・高とディベートをしており、県立図書館はじめ県内の図書館を頻繁に利用した。実は、友達との議論が白熱しすぎて県立図書館の方によく注意された。ディベートの資料を集めるのによく来ていたがさっき書庫を案内してもらってすごい!
植島:笑いが絶えないような雰囲気作りもほしい。
坂倉:県立図書館はさっき案内してもらって、四日市とは違うと思った。入口に買い物かごが置いてあり、借りるときに使える。あったかい。児童書コーナーに専門書が充実。機械類はまったくわからないので、ついていけないと思った。
石川:自分が学生のころも、図書館はまじめな奴がいくところだと思われていた。けれど本当はとても自由なスペースだと思う。自由に本を手に取り、そこから広がっていける。図書館を歩くのは世界を旅するようなもの。
   <パネリストたちの紹介とブラウジングする楽しみについて>
植島:三重県の特殊性ってどんなものがある?
坂倉:三重も広いので…
   <しばしローカルネタ>
植島:けれどこれからは地域資料を重点化すべき。図書館もより地域化していくはず。
   <三重県立図書館のPRDVD視聴>
      └最近の取り組み 全国の図書館・大学とのネットワーク
               e-Booking(オンライン予約配送サービス)
               MIRAI(三重県図書館情報ネットワーク)
植島:MIRAIで、県内どこの本でも借りられるんでしょう?
坂倉:たぶん借りられます
植島:この資料*3を見ると、「5つの方策」「3つの活動」「2つの約束」と箇条書きにされていて無味乾燥というか味も素っ気もないのですが、これはヒアリングレポートに基づいて作られたものなんですよね?
坂倉:3つの活動は1読書推進、資料電子化の研究、2市町の図書館支援、人のネットワーク強化、保存計画 3三重県資料の充実、などがある。ヒアリングは県内50人の関係者や専門家に行っていて、私も2時間ほどみっちり聞きとられた。
植島:このレポートがおもしろい。メリーゴーランド*4の人は図書館の中に書店を開きましょう、と言っていて独創的。メリーゴーランドは児童書専門店、このような書店などと比べるとやはり図書館は無個性に見える。図書館の個性が見えるような、例えば「司書のお薦め」コーナーがあってもいい。図書館が無料というのも考え直していいのではないか。図書館は料金をとってはいけないのか?
坂倉:それは考えたこともなかったのでわからない。
 :図書館法にいけない*5とあった。
植島受益者負担では?
坂倉:公立では難しいのでは。
植島:メリーゴーランドの提案にもあったが、書店員が図書館にきて絵本を読む、というようにオープンにしていくのは?
坂倉:書店へ出向いて図書館員がお話会をしていることもある。
植島:図書館はドキュメント、博物館はモニュメントを扱うけれど、ドキュメントはモニュメントの一部だと考えることもできる。
石川:美術館だと、学芸員の力でその館ならではの展覧会が行われる。そこには美術館の個性がでるが、それと比べると司書は見えてこない。ただ、この資料のチエとチカラ*6という言い方に県立図書館の独自性が表れていると思う。目的に応じて図書館が編集する、というのがいい。
植島:チエをチカラに変えていくのが図書館であり司書だということ。
石川:資料は流動して行かないと資料として力を発揮できない。書庫にいてもう何年も借りられていないけれどいい本、というのはあるはずで、それを司書が見つけて発信してほしい。
:図書館について勉強すると、図書館がまちづくりをすることもできるし、社会を変えていくこともできる、ということを感じる。そのすごさをもっと今回のシンポジウムのようにアピールしていってほしい。
植島:本を無料で借りるところというイメージを変えていく必要がある。電子書籍が出てきているが、それについてはどう思うか?
坂倉・石川・萩:物体としての本、紙の本がいい。*7
   <ディスカッション終了 ※資料1、資料2の「2つの約束」については言及なし>
■質疑応答
質問1:鳥羽の図書館では児童書にマンガコーナーがあり、子どもたちはそこでマンガばかり読んでいる。図書館にマンガをおくことについてどう思うか? 質問者は反対。
坂倉 :マンガばかり読んでいるからといって全く本を読まない、ということもない。図書館でマンガを読んでいる光景をよく目にするというが、それは一場面であって恒常的にそうだということも言い切れないと思う。大丈夫。
質問2堺市立図書館は今日から電子書籍のサービスを始めるそうだが、今後その予定はあるのか?
県職員:まだ機器も定まっていないので、現時点ではない。今後検討する。
質問3鳥羽水族館のバックヤードツアーがよかった。図書館もそのような企画をしてほしい。
質問4:人生の一冊は?
植島 :ル・クレジオ/偶然。ミシェル・レリス/幻のアフリカ。
坂倉 :キュリー夫人。子どもの頃読んだ偉人伝の版。
石川 :アルセーニエフ/デルス・ウザーラ
  :三浦綾子/氷点。

*1:三重県立図書館シンポジウムチラシ([http://www.pref.mie.jp/TOPICS/201011010110.pdf:title=PDF](752KB))

*2:本年4月公開予定。

*3:配布物。資料1:「公立図書館の設置および運営上の望ましい基準」 資料2:明日の県立図書館に向けての基本的な考え方 大綱と「2つの約束」の詳細

*4:四日市市の児童書専門店。http://www.merry-go-round.co.jp/

*5:図書館法17条

*6:図書館が持つチエ(目的に応じて編集された情報)とチカラ(チエから生まれた行為)を利活用することおよび図書館ネットワークによるサービスの充実を主眼とする改革プランが生まれました。 資料2:明日の県立図書館に向けての基本的な考え方 p.3

*7:三者それぞれの立場からの意見・表現をなさっていましたが、纏めると紙。