新学習指導要領・小学校国語教科書と図書館

学校図書館を活用するという朝日新聞の記事を読みました。「学校図書館、授業に活用」http://www.asahi.com/edu/news/TKY201207150140.html というもの。
記事には、

図書館教育への関心は高まっている。小学校の国語教科書の約6割のシェアを持つ光村図書出版では昨年から1、2、3、5年生で学校図書館について記述。5年生では「わたしたちの『図書館改造』提案」と6ページを使い、必要な情報を集め、分析し、提案書を書くように導いている。

とあります。実際、光村図書出版の教科書がどのように組み立てられ、つくられているのか知りたくなりました。残念ながら、私は小学校教員ではありません。大学に所属してもいません*1。教科書そのものは手に入らない。じゃあ、光村さんのサイトを思い切り見せて戴くしかない!
そこで、光村図書出版株式会社さんのサイトをものすごく読む! そして探す! を試してみました。入口は、光村さんホーム→教科書・副読本→小学校国語 のここ http://www.mitsumura-tosho.co.jp/kyokasyo/syogaku/kokugo/ です。
中の、《単元系統一覧表・観点別内容と特色》http://www.mitsumura-tosho.co.jp/kyokasyo/syogaku/kokugo/tangen/ からは、単元ごとにどのような教材を用いて何をしたい(学ばせたいか)が把握できます。
《年間指導計画資料・評価計画資料》の「年間指導計画および評価の計画作成に当たって(PDF)」→http://www.mitsumura-tosho.co.jp/material/23skyokasho/pdf/kokugo/plan/10.pdf を読むと、新学習指導要領の基本的な考え方を踏まえて行っている工夫が明記されています。学校図書館に関わるのはやはりここ。

(5)読書活動の充実
読書単元「本は友達」を設定し,図書館活用や情報活用の技能を身につけるとともに本と児童自身とのかかわりを考える学習の場を設けた。また,各学年巻末の図書リストにとどまらず,各単元で,読書活動へと発展させることができるよう学習の手引きを工夫した。学習指導要領の指導事項一覧をふまえて、指導事項をつくり、教材を選定してゆく。

つまり、「本は友達*2」という単元を小学校6年間を通じて特別に設け、図書館・情報といったいわゆる“情報リテラシー”を扱う。また、この単元だけでなく、あらゆる単元において児童を読書活動に向かうように教科書を作成した、というのです。
先ほど申しましたように、教材をみることはできません。光村さんの「指導資料」から得られる、《年間指導計画資料・評価計画資料》から、「年間指導計画例*3を読んで、学校図書館を活用する工夫がどのように為されているのかを探してみます。
 
以下は、指導案を書いた経験のない方には読みにくいかもしれません。ご容赦ください。また、太字や記事作成上の改変はivory_reneによるものです。
 
 
教材別資料一覧  
#◎はその単元・教材が主たる学習場面であり、確実に身につけることが望まれる目標、○は学習することでそれを支えたり定着させたりすることが望まれる目標。
#目次/作者・著者プロフィール→http://www.mitsumura-tosho.co.jp/kyokasyo/syogaku/kokugo/ それぞれの学年へ。
#出典一覧→http://www.mitsumura-tosho.co.jp/kyokasyo/syogaku/kokugo/shutten/
 
1年生

「ほんは ともだち」
◎自分の読みたい本を選んで読むことができる
○本の気に入った部分を選び,友達に知らせたり,友達の紹介を聞いて,次に読む本を考えたりすることができる。
■読んだ本について,好きなところを紹介する
1先生の読み聞かせを楽しんだり,好きな本を探して読んだりする。
 ・今までに,自分が読んでおもしろかった本について話す。
 ・P81にある本やおもしろそうな本を学級文庫や図書館で探して選ぶ
 ・先生に読んでもらったり,友達といっしょに読んだり,一人で読んだりして楽しむ。
 ・自分が選んだ本の好きなところを声に出して読んで発表する。
 ・自分も読んでみたいなと思う本があるか考えながら聞く。

本は ともだち:ずうっと、ずっと、大すきだよ
○場面の様子について,登場人物の行動を中心に,想像を広げながら読むことができる。
・お話と自分の経験とを結び付けて読むことができる。
◎文と文のつながりに気をつけて,紹介したい本のカードを書いたり,書いたカードを読み合って楽しんだりすることができる。
■本や文章を,楽しんだり想像を広げたりしながら読む
■本の好きなところを紹介する
1よかったところ,心に残ったところを見つけながら教師の読み聞かせを聞く。
2挿絵を並べ替えて,物語の大体をつかむ。
3心に残ったところや好きなところを発表し合う。
4エルフが元気なときの様子と「ぼく」の気持ちを読み取る。
5エルフが年をとってから死ぬまでの様子とその時々の「ぼく」の気持ちを話し合う。
6「ぼく」に言ってあげたいことを友達と交流する。
7今まで読んだ本を思い出す。
8紹介カードの作り方を知る。
9好きな本を一冊選び,紹介する事柄を集める。
10紹介文を紹介カードに書く。
11「わたしのおすすめの本」を友達に知らせる。
12「どくしょけいかく」に書く。
13友達の紹介した本の感想を返したりその本を探して読んだりする。

2年生
まずはこれです!

図書館のひみつをさぐろう:きみたちは,「図書館たんていだん」
○相手や場に応じ,話す事柄を順序立てて,丁寧な言葉と普通の言葉との違いに気をつけて話すことができる。
図書館や本の分類について知り,本を探すことができる
■口頭で報告する
1図書館で本を借りるとき,どうしたら本をすばやく見つけられるのかについて話し合う。その後,読みたい本をすばやく探せるように,「図書館たんていだんになって,図書館のひみつを知ろう」という学習課題を設定し,学習の進め方を確認する。
・教科書P43〜46を読んで,学習の流れを知る。
2P43「おねがいカード1」を読み,グループごとに図書館地図を作る
・地図に種類別に色を付けておく。
・教科書に書かれた本を探し,見つけた本の題名を地図にはる。
・本が種類別にまとめられていることに気づく。
3「おねがいカード2」を読んで本を探し,本の分け方や並び方について気づいたことを整理する。
4音声CDを聞き,P46の下段を参考にして,話す事柄をノートにまとめる。
5ノートをもとに,調べて気づいたことを発表し合う。
6読みたい本の種類を2冊書き出し,図書館で探して読む
【関心・意欲・態度*4】図書館での本の並び方に興味をもち,分類のしかたを知ろうとしている。
【図書館活用】自分の使う図書館で,本の分類のしかたや並び方について知り,本を探す力

他の単元には、このように。

本は友だち:黄色いバケツ 「お話の国の友だち」
【図書館活用*5】自分が読んでみたいと思える本を探す力。登場人物を中心に,本の紹介をする力。(生活や他教科で生きる力/道徳や他教科等と関連する題材)
 
読んだお話をしょうかいしよう「スーホの白い馬
【図書館活動】読書感想文を書く力

3年生

本は友だち:いろはにほへと
◎目的に応じ,いろいろな本や文章を選んで読むことができる。
◎相手や目的に応じ,理由や事例などを挙げながら筋道を立て,丁寧な言葉を用いるなど適切な言葉遣いで話すことができる。
○相手を見たり,言葉の抑揚や強弱,間の取り方などに注意したりして話すことができる。
■紹介したい本を取り上げて説明する
■図表や絵,写真などを取り上げて話す
学校や地域の図書館へ行き,本を見つけるために工夫されていることを探す
2学習課題「おすすめの本を見つけてしょうかいしよう」を設定し,教科書P88〜89「本をえらぼう」から,本の選び方を学習する。
3読んでみたい本を選んで読み始める。
4〈丸山さんの発表〉と〈南さんの発表〉を音声CDで聞き,上手な紹介のしかたを話し合う。
5自分の選んだ本の紹介文を書く。
6紹介文をもとに,自分の選んだ本を紹介し,感想を交流し合う。
7「いろはにほへと」を読んで,内容や表現についての感想を交流する。
【図書館活用】図書館を活用し,選書する力。

いかにも“情報リテラシー”らしいのは、次の単元です。

ほうこく書を書こう;本で調べて,ほうこくしよう
自分の言葉でまとめる
◎生活の中から調べたいことを決め,必要な事柄について本を読んで調べることができる。
○書こうとすることの中心を明確にし,構成を考え,まとまりに分けて書くことができる。
○自分の問いを解決するために必要な本や文章を選んで読み,文章を引用したり要約したりすることができる。
本で調べて文献調査をし,報告書を書く。
1全文を読み,学習の流れをつかむ。
2生活の中で不思議に思った出来事や事柄を話し合い,調べることを決める。
3学習課題を設定し,学習計画を立てる。
4事典や図鑑の使い方を理解する。
5カードに書かれた言葉を早く調べるゲームをし,検索の練習をする。
6調べたいことを事典や図鑑,科学読み物などの本から探して読み,報告書に書くことを収集する。
7P93〈ほうこく書の型〉を参考に構成を考え,調べたことを整理する。
8まとまりごとに分けて下書きを書く。
9報告書の下書きを友達と読み合って意見を交流する。
10下書きを読み返し,友達からの意見を生かして仕上げる。
【読むこと】文献を参照・引用している。図書館などの利用方法や,事典や図鑑の使い方を理解し,いろいろな本を探して読んでいる。

他に、れいをあげてせつめいしよう「食べ物のひみつを教えます」、民話や物語の組み立てを考えよう「三年とうげ」にも図書館への言及があります。
 
4年生
朝日新聞の記事では、「1、2、3、5年生で学校図書館について記述。」とありますが、指導例を読むと図書館に言及している箇所が見つかります。

読書生活について考えよう
◎知りたいことについて必要な事柄を工夫して調べ,調べる方法,調べた結果,結果から考えたことを明確にして文章を書くことができる。
○句読点を適切に打ったり,段落の始めなどの必要な箇所は行を改めて書いたりすることができる。
■実地調査をし,調べたことを報告する文章を書く
1自分たちの読書生活を振り返り,読書と自分の生活とのつながりについて考える。
読書生活の実態を調査し,報告書を書くことを確認して,学習計画を立てる。
3グループごとに,調べたいことを話し合って決める。
4アンケート調査のしかたを知り,グループごとにアンケートを作成する。
5結果のまとめ方を学び,アンケートを集計して,表やグラフにまとめる。
6結果から分かることをグループで話し,よい点や問題点について考える。
7報告書の型を学び,例文から構成や表現のよさを見つける。
8分担を決め,「今後のこと」に書く内容を話し合う。
9構成を考え,図やグラフを効果的に活用して,書く。
10グループで読み合い,間違いを正したり,よりよい表現に改めたりする。
11目次・表紙などをつけ,報告書を仕上げる。
12学習を振り返る。
【図書館活動・日常生活】読書生活を見直し,よりよい読書生活について考えさせる題材

他に

漢字の組み立て:漢字辞典の使い方
【図書館活動】辞書を引くことに興味をもち,引き方に慣れる
 
物語を読んでしょうかいしよう:一つの花
【図書館活動】自分の選んだ事柄を中心にして本を紹介する力
 
本は友達:かげ
【図書館活動】紹介したい本を,ポスターを作って紹介する力
 
物語を読んで,感想文を書こう:三つのお願い
【図書館活動】読書感想文を書く力

という4つの単元も図書館活動に発展させることができると読みとれます。
 
5年生  
朝日新聞の記事になっていた「5年生では「わたしたちの『図書館改造』提案」と6ページを使い、必要な情報を集め、分析し、提案書を書くように導いている。」というのがここです。

本は友達:わたしたちの「図書館改造」提案 千年の釘にいどむ
◎目的に応じて収集した事柄を,全体を見通して整理し,自分の考えを明確にするため,文章全体の構成の効果などを考えて書くことができる。
◎本や文章を読んで考えたことを発表し合い,自分の考えを広げたり深めたりすることができる。
○文や文章にはいろいろな構成があることについて理解することができる。
■自分の課題について調べ,意見を記述した文章を書く
■文章を読み,自分の生き方について考える
1教科書P146を読んで活動の流れを確認し,学習課題「提案書を書いて,みんなにアイデアを伝えよう」を設定する。
自分たちの図書館について調べたいことを決め,現状をとらえる調査をする
図書館や書店で解決につながりそうな工夫を見つけたり,話し合いによってアイデアを練ったりする。
4教科書P150「提案書の構成」を確認して提案書を書き,互いに読み合って,書き方や提案に対する自分の考えを伝え合う。
5「千年の釘にいどむ」を読み,白鷹さんのしたことや言ったこと,考え方について,自分の感想をメモし,それを交流する。
【図書館指導】図書館の役割をとらえ直し,よりよく利用するよう意識させる題材。本の分類について理解させる題材。

指導の予定としてあてられているのは、12月。このあと冬休みに向けて、本を借りましょうっていうのかな、と想像します。小学校の冬は読書を勧められたイメージ。
4年生と同じく、6年生にも評価に【図書館活動】がある単元があります。
6年生に図書館を銘うったものはないように、新聞記事からは読みとれます。けれど、情報・読書教育という観点から発展させれば以下のような単元も。
 
6年生

自分の考えを明確に伝えよう:「平和」について考える
<資料>平和のとりでを築く
◎「平和」をめぐる自分の意見が説得力をもつように具体例や資料を集め,意見を明確に伝えるために文章全体の構成の効果を考えることができる。
■意見文を書く
■意見を主張するスピーチをする
【社会・総合的な学習の時間・図書館活用】インターネットや文献を使って情報収集する力
 
本は友達:わたしと本 「森へ」
◎これまでの本との関わり方について振り返り,書くことを決め,自分の考えを明確に表現するため,事実と感想,意見などを区別することができる。
・互いの読書体験を聞き合い,自分の体験や考えと比べるなどして考えをまとめることができる。
・目的に応じて適切な本を選んで読むことができる。
【図書館活用】本を推薦する文章を書く力

更に、以下の三つの単元も図書館利用と無関係ではありません。評価の観点にも、図書館活用を設けています。

熟語の成り立ち
【図書館活用】漢字辞典を使って,語句を調べる力
 
作品の世界を深く味わおう:やまなし
<資料>イーハトーヴの夢
【図書館活用】複数の本や文章を読み比べる力
 
言葉について考えよう:言葉は動く
【図書館活用】国語辞典等を使って,語句を調べる力


ざっくり読んで思うのは、どの単元も図書館活用につなげようと思えば可能であること。指導要領に沿えば当然のことですが。新指導要領 の「小学校総則第4(10)学校図書館を計画的に利用しその機能の活用を図り,児童の主体的,意欲的な学習活動や読書活動を充実すること。」は、どのようにも扱える可能性がある。反面、扱わなくてもいいということ、になるのではないかとも思います。たとえば、「国語・社会・算数・理科・体育の授業時数を10%程度増加」は分かりやすくて必ず従わねばなりません。理数教育や伝統や文化に関する教育、外国語教育も、同様に具体的です。では、言語活動は? 図書館活動は? 自由度の高さは可能性を秘めています。同様に、行わない(あるいは行えない)自由度でもあるのです。
光村図書出版さんの教科書や、それを活用しようとする力のある学校さんは素晴らしいと思います。では、活用するだけの体力のない学校さんは? 難しいなあ、と。
 
感想。
今回光村さんのサイトを読んでよんでよんで! をしてわかったこと思ったこと。webにつながればかなりの情報が拾える。けれど実物に勝るものはない。流通が限定されているものを手に入れるには組織に所属していた方が便利。高等教育機関うらやましい。

*1:初等教育の教員養成を持っていれば教科書は大学図書館に在るのでしょうが。

*2:すべての学年で「本は友達」があります。光村さんが挙げている《教材末「本は友達」図書一覧》→http://www.mitsumura-tosho.co.jp/kyokasyo/syogaku/kokugo/shoukai/ 

*3:先生たちはこんなふうに授業をつくり、指導してはどうでしょう? という指導案。光村さんの考える最も理想の授業なのかな、と考えています。こんな親切なものまで教科書会社さんは作ってくれるのか、という驚きをもって読みました。

*4:評価の観点の中に「図書館」の文言があるのが印象的。

*5:「図書館活用」は評価の観点ではありますが、一般的な観点別評価 (1)関心・意欲・態度 (2)話す・聞く能力/書く能力/読む能力 (3)言語についての知識・理解・技能、ではないのです。