高校生に読書を勧めない理由

高校で国語総合、現代文、古典(古文・漢文)の授業を担当しています。が。
直接生徒に向かって「ぜひ本を読みなさい」とは殆ど言いません。
「本を読みなさい」と指導するのは、生徒の過ごす高校3年間で2度だけ。
 

  • 高校1年生 読書感想文が夏休みの課題なので。
  • 高校3年生 推薦入試、AO入試など、一般入試(学力試験のみ)以外の方法で受験をする生徒に対して。

 
高校1年生に感想文を課し、青少年読書感想文コンクールに作品を出品するのは、慣例になっているようです。当然「読みなさい」と指導することになります。私は課題図書程度しか本の紹介はしませんし、あまり作文指導なども行いません。生徒の本の選択・好みや文章力を観察することができ、今後の指導の参考になります。感想文の体をなしていないものからいっぱしの評論家までいて、割合とおもしろく読んでいます。
 
高校3年生には「必ず2冊は本を読みなさい」と言うことにしています。1冊は志望する専門領域の入門書。もう1冊は、面接で最近読んだものを訊かれた際に答えられる程度の無難な何か。一般入試以外の方法を選択した生徒は、大抵一度は小論文や面接で入試に挑むことになります。自分自身の主張をするとともに、志望する専門領域に関心があることをアピールしなければなりません。また、学力試験を避ける生徒は得てして学力が高くありませんので、学問について知識を得てから受験してほしいというのも理由のひとつです。
 
さて。普通、国語の先生ならば嬉々として読書を勧めるはずなのに。と思う方もいらっしゃるでしょうし、私もそんな夢を持って就職しました。けれど、読書を勧めるのは彼らにとってメリットがあるのだろうか、と考え始めたのです。
読書は、高校生の成績に直結しません。
学力向上のために読書を勧めるのは、指導として寧ろ不親切です。
普段本を読まない生徒が頑張って一冊読み通すよりも、英単語や古語単語を覚えたほうが成績は上がります。四年制大学を希望する生徒の将来をおもうとき、学力のために読書を勧めるのは躊躇われるのです。
小学校や中学校時代に読書をし、漢字・語彙や読解力をつける、様々な分野の知識を得る、……というのはまだ学力と結びついているように思うのですけれど。
高校教員の身としては、学力を伸ばさないといけないデッドライン(大学入試)が近すぎて、「学力向上のために読書」と謳うのは迂遠すぎるように思ってしまうのです。学校は学力向上を目的とするだけの場でないことは勿論分かっていますし、生きる力をはじめとする教育の理想を放り投げたわけでもありませんが。


 
 
注)
「読みなさい」との指導を行わないだけで、オススメ本の紹介や図書館利用についての声かけは随時行っています。
勤務校は1学年が約400人で、2/3以上は上級学校に進学します。担当している学級はどこも偏差値がクラス平均40弱。あまりよろしくありません。○月までに△△模試の範囲を終わらせて偏差値5アップを目指しましょう、などと会議で言われるような体制です。